OLTPとOLAPの違いを理解する
公開日:2025-04-22
はじめに
データベースシステムを語る上で、OLTPとOLAPという2つの重要な概念があり、これらは、データベースの利用目的や処理の特性によって異なるアプローチを表している。本記事では、OLTPとOLAPの違いを理解し、それぞれの特徴や適した用途について解説する。
OLTPとは
- OLTP(Online Transaction Processing:オンライントランザクション処理)
- 日常的なビジネスで発生するトランザクションをリアルタイムで処理するためのシステム
主な特徴
- トランザクション指向:注文処理、在庫管理、予約システムなど、短時間で完結する多数のトランザクションを処理する
- データ更新が頻繁:頻繁なデータの挿入、更新、削除操作が行われる
- 正規化されたデータモデル:データの重複を避け、整合性を保つために正規化されたスキーマを採用
- 低レイテンシー:応答時間が短く、即時性が重視される
- 単一レコード処理:一度に少量のレコードを処理することが多い
代表的な用途
- 銀行の口座取引システム
- ECサイトの注文処理システム
- 座席予約システム
- POS(Point of Sale)システム
OLAPとは
- OLAP(Online Analytical Processing:オンライン分析処理)
- 意思決定や分析のために大量のデータを多次元的に分析するためのシステム
主な特徴
- 分析指向:蓄積された大量のデータから傾向や洞察を得るための分析処理を行う
- 読み取り操作が中心:READ が大半で、書き込みは ETL/ELT のバッチがメイン
- 非正規化データモデル:分析の効率化のため、多次元モデルやスタースキーマなどの非正規化構造を採用している
- 高スループット:大量のデータを処理する能力が重視される
- 集計処理:複数のレコードを集計して分析することが多い
代表的な用途
- ビジネスインテリジェンス(BI)
- データウェアハウス
- マーケティング分析
- 財務分析システム
- 売上予測・傾向分析
- IoT/ログ解析
OLTPとOLAPの比較
特性 | OLTP | OLAP |
---|---|---|
主な目的 | 日常業務のトランザクション処理 | データ分析・意思決定支援 |
データ更新 | 頻繁な更新(挿入・更新・削除) | 定期的な一括更新(ETL処理) |
処理の単位 | 単一レコード単位の処理 | 複数レコードの集計・分析 |
データ量 | 比較的少量(現在のデータが中心) | 大量(履歴データを含む) |
応答時間 | ミリ秒単位(即時性重視) | 秒~分単位(処理量重視) |
クエリの複雑さ | 単純なクエリが中心 | 複雑な集計クエリが中心 |
最適化 | トランザクション整合性と速度 | 分析クエリの効率化 |
データモデル | 正規化 | 非正規化 |
バックアップ戦略 | 頻繁なバックアップ(データ喪失リスク低減) | 比較的少ない頻度 |
主なユーザー | 顧客、店員、オペレーターなど | データアナリスト、経営層など |
主な製品・サービス
OLTP 系
提供形態 | 代表プロダクト |
---|---|
クラウド PaaS | Amazon Aurora, Azure SQL Database, Google Cloud SQL |
OSS / セルフホスト | MySQL, PostgreSQL, MariaDB, Oracle Database, SQL Server |
NewSQL / 分散トランザクション | CockroachDB, YugabyteDB, Google Cloud Spanner |
OLAP 系
提供形態 | 代表プロダクト |
---|---|
クラウド DWH / SaaS | Snowflake, Amazon Redshift, Google BigQuery, Azure Synapse Analytics, Databricks SQL Warehouse |
OSS / 列指向ストア | ClickHouse, Apache Druid, Apache Pinot, StarRocks, Vertica CE, DuckDB (インプロセス) |
HTAPの登場
- 最近では、OLTPとOLAPの境界が曖昧になりつつあり、両方の特性を併せ持つHTAP(Hybrid Transactional and Analytical Processing)と呼ばれるシステムも登場している。HTAPは、リアルタイムなトランザクション処理と分析処理を同時に行うことができるため、データの即時性と分析の効率化を両立させることが可能である。
- 代表的なHTAP製品にはTiDBがある。TiDBは、MySQL互換の分散型データベースであり、OLTP処理には行指向ストレージエンジンのTiKV、OLAP処理には列指向のTiFlashを使用している。これにより、トランザクション処理と分析処理を同時に行うことができる。
まとめ
-
OLTPとOLAPは、それぞれ異なる目的と特性を持つデータベースアプローチ。OLTPはビジネスの日常業務を支える基幹システムとして高速なトランザクション処理と整合性を重視する一方で、OLAPは蓄積されたデータから経営判断に役立つ洞察を得るための分析基盤として機能する
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現代のデータ活用では、OLTPで収集したデータをETL(抽出・変換・ロード)処理を通じてOLAP環境に移行し、分析に活用するというデータフローが一般的。組織のデータ戦略においては、これら2つのアプローチをうまく組み合わせることが重要
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最近では、ビジネスの高度化に伴い、OLTPとOLAPの境界が曖昧になりつつあり、両方の特性を併せ持つHTAP(Hybrid Transactional and Analytical Processing)と呼ばれるシステムも登場している。組織の要件に応じて、適切なアーキテクチャを選択することが重要となっている